住まいのコラム|6.「普通の家」がいいんだけど

数々の個性的な住宅を取材してきた佐々木さんが今ひそかに望むのは「普通の家」。スタイリッシュで完璧な家よりも、背伸びせずに自分らしい暮らしができる懐の深い家と一緒に年を重ねていきたい。そんな自分にとっての「普通」を追求することこそが、実は家づくりの大切な原点なのです。

 

住宅ライター佐々木由紀さんによる「住まいのコラム」第6弾《最終回》。
6.「普通の家」がいいんだけど

「普通の家」ってどんな家?

住宅ライターとしてたくさんの家を取材し、色々な建築家やビルダーのお話も聞いていると言うと、「自分だったらどんな家を建てたいですか?」「誰に頼みたいですか?」などと尋ねられます。きっととても個性的かつスタイリッシュな家とか、こだわり満載の家を、著名な建築家や人気のビルダーに頼んで建てるイメージなんでしょうね。

でも千差万別の家を見てきた私が行き着いたのは、「普通の家」がいいということ。普通の家を、頑張り過ぎずにさらっと建てて、普通に暮らしたい。

あまりにたくさんの、「こんな家が素敵」「家づくりはここが大事」「間取りはこれが正解」などの主張を聞いて、それぞれに納得する点はあるけれど、でも結局家づくりに「絶対」なんてないんじゃない?住まいが大切ということはもちろん認めるけど、もうちょっと肩の力を抜こうよ。普通でいいやん、普通で。と、実は思っているのです。

ところがその普通の家がなかなか見つからない。今どきの主流と思われる家を見ても、私のイメージする「普通」とはどこか違う。私にとっての「普通の家」ってどんな家?つらつら考えてみました。

 

「ポジティブな散らかり」を受け入れてくれる家

わが家はたいてい散らかっています。モノが多いとか、私が片付け下手だとか、そのせいで子どもに片付けの躾をできなかったとか、反省点は多々あるのですが、ただ、私は家の散らかりは、家族の一種のエネルギーの表れでもあると思っています。

好奇心が旺盛だから、モノが増える。興味の対象が広いから、色んなものが出しっぱなしになる。活動的に暮らしているから、多少乱雑になる。そういう状態を私は「ポジティブな散らかり」と呼んで正当化しています(笑)。そしてそんな散らかりを、大らかに受け入れてくれるような家がいいなあと思うのです。

わが家のようなタイプには、周到に計画された収納プランはむしろ合わないような気がします。そもそも、「あるべき場所にあるべきものがピシッと納まった状態」をそんなに望んでない。かといって、なんでも放り込める納戸的な収納スペースもたぶんダメ。夫が管理すればギューギューに詰め込んで何がどこにあるかわからなくなるだろうし、私が管理すれば中はガラガラでいろんなものが部屋に出てきてしまうに違いない。

だから収納は「部屋ごとに適度にある」程度でいい。それよりも家自体が、普通に暮らして生じる多少の散らかりは気にならないような、懐の深い家である方が私にとっては大事です。それはどんな家かとざっくりいうと、生きている素材を使った、デザインされ過ぎてない家。

生きている素材というのは、つまり自然素材。つるっとした素材より風合いのある自然素材の方が、散らかりに対して鷹揚な気がします。そしてデザインしすぎた空間は、異物に対して拒絶反応を示すから、散らかりが気になりそう。

そしてこの2つの要素は散らかりに対してだけじゃなく、いろんな意味で私が重視していることです。

 

「いい感じに年をとる」素材を使った家

以前、「年を重ねても美しい家」という企画の記事を書いたことがあります。新築のときに訪れたお宅を、10年後にあらためて伺ったのです。2軒取材したのですが、2軒ともみごとに10年後の方が素敵でした。そしてその2軒の共通点は、どちらも床が無垢材、壁は漆喰などの自然素材の家だったのです。

新築時の写真と並べて掲載したのですが、特に際立ったのは床。10年後の家の方が色が深まり、味があって、まさに「いい感じに年を重ねたなあ」という雰囲気。さらに印象的だったのは、どちらのお宅もお手入れは「普通に掃除機をかける程度。特に気を使ってることもない」とおっしゃっていたことでした。

たまたまその取材の少し前に、私は昔の同級生の家をはじめて訪れていました。その同級生はいかにも「できる主婦」という感じで、家もきちんと片付き、美しく設えてあったのですが、築約10年だというその家はどうしても劣化が感じられたのです。

フローリングの床のキズ、クロスの壁の汚れ。特に手の届かない吹き抜け上部の壁にホコリが絡んでいる様子は、インテリアが素敵なだけに悲しい光景でした。静電気を帯びるクロスはホコリを招き寄せやすいのだとか。一方取材で訪れたお宅の漆喰壁は、10年経っても冴え冴えと美しかったのです。

そんな経験もあり、私の中で「自然素材」というのは重要項目です。確かに合板フローリングやクロスより経費がかかるかもしれませんが、ほかの設備や機能面のコストを落としてでもここにはお金をかけたいポイントになっています。

 

洗濯物もおばあちゃんも似合う家

ドアノブやスイッチにまでこだわったヨーロピアンな家や、妥協を許さないような建築美を追求した家は、取材で訪れると心底いい家だなあと思い、本当に好きです。が、そのようなデザインを極めた家の「異質なものを排斥するような雰囲気」は、私の住みたい「普通の家」の基準からは外れます。

ずいぶん前の話ですが、私は布おむつで子育てをしていたので、わが家の中にはよくタコ足の洗濯物ハンガーに干したおむつがぶら下がっていました。その頃はデザインにこだわった家を訪れると、「いいなあ。でもこの家におむつは似合わないなあ」と思ったものです。

家の中のおむつは極端だとしても、私にとって洗濯物はキーワードの一つ。「家の前に洗濯物がはためいている」というのは幸せな光景の一つなんです。最近は洗濯物を見せないようにプランした家が多いですが、私には庭の洗濯物とセットになって「普通の家」。洗濯物が似合うような何気ない外観デザインが望ましいな。

また私は実家でずっと祖母と同居していたので、そういうデザインにこだわった家には「おばあちゃんも似合わないなあ」とも感じました。よく考えると私の祖母の世代は「いかにもおばあちゃん」だったけど、今どきはお孫さんがいる人も若々しくて、デザイン住宅にも似合いそうですが(笑)。

家族も、訪れる多種多様な人も、何なら迷い込んだ野良猫も、無理なく溶け込める家。誰かのこだわりが突出したリ、作家性が出過ぎたりしないというのも私の「普通」の基準です。

 

「旬のプラン」に左右されない家

対面キッチンが一般的になってきたのは、ここ10年くらいでしょうか?最近では新築のお宅に取材に行くと9割以上が対面キッチンです。そして対面にした理由を尋ねると、「子どもの様子を見ながらキッチンに立てる」「家族や遊びに来た友人と会話できる」「調理や後片付けのときに孤立感がない」などの答が大半です。

また、ここ数年で急速に伸びてきているのが「リビング階段」です。その理由は対面キッチンよりもっと画一的で、皆さん「子どもが自室に直行しないように」とおっしゃいます。

私の思い描く「普通の家」には対面キッチンもリビング階段もありません。キッチンは窓に向かっていて、階段は玄関。ひょっとしたら一昔前の昭和の家のイメージかも。

昔の家が全部いいとは思いませんが、昔のプランはそれなりに無理のない理由があったと思うのです。

窓に向かったキッチンは朝のお弁当づくりのときも朝日が差して気持ちいいし、夏なら窓を開けて風を通せる。換気も外が近いから簡単な気がします。階段はリビングにあると冬の暖房の熱が逃げたり、上から冷気が下りてきそうでイヤだ。性能のいい家にするとその心配もないそうですが、そこまで性能にお金をかけるのも私の「普通」から外れるし。

うちは壁付キッチンと玄関階段で子育て時代を過ごしましたが、それによって子育てが大変だったという思いはありません。キッチンは壁付だけどオープンで、すぐそばにダイニングテーブルがあったから、孤立感も感じないし子どもの様子もうかがえました。階段は玄関にあるけど、夏はどこもかしこも開けっ放しにする家なので、リビングも「ウェルカム!」って感じで開いてるし、冬は床暖房でぬくぬくしたリビングについ飛び込んでしまうという寸法。それでも自室に直行したときは何かあったときなので、そのときは様子をうかがいつつさりげなく声を掛けたり。

どんなプランがいいという話ではなく、どんなプランでも問題が生じることもあれば大丈夫なこともある。「これが子育てを左右する」なんて情報をうのみにし、ほかのことを犠牲にしてまでプランしなくてもいいんじゃないの、と思います。

 

「普通の家」の追求はまだまだ続く

太陽の光や風を取り入れること、冷暖房のこと、設備のこと、照明のことなど、「普通の家」について語りたいことはまだまだあって、「頑張り過ぎずにさらっと建てる」というイメージから遠くなってきました(笑)。普通の家を誰に建ててもらうかも大問題です。

自分にとっての「普通の家」を考えることは、自分自身や家族のこと、暮らしのことから社会のことまで思い及ぶことなので、これからも折に触れて考え、追求していきたいと思います。

 

 

 

今回で最終回。今までずっと「人の話を聞いて書く」ことを仕事にしてきたので、自分の考えを書くことの難しさを今さらながら思い知りました。たくさんの人の話を聞いて、「あれもあればこれもある」「こんな考え方もできる」とその折々に書いてきたので、さて自分はというと、断言できない人間になってしまっているようです。

でもそれほどに、家についての方法も考え方も色々です。家を建てるというと、「こうした方がいいよ、絶対」とアドバイスしてくれる人がたくさんいると思いますが、それはその人にとってそうだったということ。まず「自分軸」をしっかり持って、自分たちらしい家づくりをしていただきたいと思います。

 

読んでいただいてありがとうございました。

 

 

前回のお話(第5弾は)こちらから→ 5.シンプルな家について考える


Sasaki Yuki

住宅ライター

広告のコピーライターを経てフリーランスのライターに。住宅・インテリアを中心に一般のお宅を訪れて取材し、雑誌などに原稿を執筆する。合間に楽器バンジョーを奏で、時折音楽イベントを企画。

soho MUGCUP

– KAMAKULANI

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