住まいのコラム|2.「快適さ」と「心地よさ」 ― その1『室温』

快適さと心地よさ、その2つの言葉にはしっかりと使い分ける理由がありました。
断熱性能がもたらす快適さと、それを心地よいと感じる気持ち。
どちらも家づくりにとって大切な要素で、家と暮らしがつながっていることを裏付けているようです。

 

住宅ライター佐々木由紀さんによる「住まいのコラム」第2弾。
2.「快適さ」と「心地よさ」 ― その1『室温』「傾斜に沿って展開する平屋の家」

使い分けている2つの言葉

「快適」と「心地いい」。
どちらも家づくりの本や記事などによく出てくる言葉ですが、違いがあるのでしょうか?
出たばかりの広辞苑第7版を引いてみました。

 

“「快適」ぐあいがよくて気持のよいこと
  「心地いい」気持がよい

−広辞苑第7版より

 

ほぼ同じです。でも私が原稿を書くときには微妙に使い分けているような。
たとえば広々した吹き抜けは「快適」で、吹き抜けの高い窓から降り注ぐ光は「心地いい」。床暖房の暖かさは「快適」で、陽だまりの温もりは「心地いい」。設備の整った新築住宅は「快適」で、古い小さな木の家は「心地いい」。

もちろん、厳密ではないのですが、広さや寒暖など、数値で測れるようなものは「快適」、もう少し感覚的なものを「心地いい」と使っている気がします。あるいは「快適」の方がいくぶん客観的で、「心地いい」は主観的な意味合いで使っているかもしれません。

住宅性能の進化が、快適さを高めている

快適さの一つの指標が「室温」ではないでしょうか?冬暖かく、夏涼しい家は快適です。そしてそれを左右する大きな要素が気密性・断熱性。長年住宅取材をしていて「進化したな」と実感する一つが、この気密性・断熱性なんです。

たとえば窓。ペアガラスってご存知でしょう。2枚のガラスを合わせた窓のサッシ。このペアガラスという名前は某社が商標登録しているので、一般名詞としては「複層ガラス」なんですが、15年くらい前には、「複層ガラスを採用しています!」というだけで胸を張っていたものです。でも今や新築住宅で複層ガラスはあたりまえ。三層のトリプルガラスや、内面に金属膜を設けたLow-Eガラス、アルミより断熱性の高い樹脂サッシなど、高性能のものがどんどん登場しています。断熱材も20年ほど前は「入っていればOK」という感じで、種類もほとんどがグラスウールでしたが、今や発泡ウレタンや羊毛、セルロースファイバーなど素材が多彩になり、断熱材の施工も緻密に行われるようになって、断熱性能が随分高くなっています。

昔は賃貸の集合住宅から新築の一戸建てに引っ越したばかりの人に取材すると、「やっぱり一戸建ては寒いですね」という声をよく聞きましたが、最近は「暖かいし、光熱費もそんなに高くなっていません」という人が多いです。さらに「結露が全くないので驚いています」との証言も。たぶん私がきちんとした注文住宅の取材をすることが多いせいもあるでしょうが、確かに日本の住宅の「快適さ」は格段に進化していると思います。

 

快適だと暮らしのパフォーマンスが上がる

家の中が快適な温度に保たれていると、動くのがおっくうになりません。
しかも最近の高性能の家は、家の中の温度差が少なくなっています。
「ウォークインクローゼットの中も寒くないので、着替えが苦になりません」
「納戸も温度差が少ないのでサッと行く気になり、家の中が片付きます」などの感想にはなるほど!と納得です。私が結婚後はじめて住んだ家は、古くて小さな木造の平屋でした。味があってかわいくて大好きな家だったのですが、とにかく冬が寒かった。何しろ窓は1ヶ所を除いてすべて木枠。すき間風入り放題です。断熱材なんてもちろん入っていません。石油ストーブをいくら焚いても寒くて、コタツから動けない。家事をするのもぐずぐず。明らかに暮らしのパフォーマンスが落ちていました。

だから暮らしの質を上げるために、気密性・断熱性が大事だとは思っています。ただ、それらの性能が高ければ高いほどいいかというと、そうは思いません。

 

超高気密・高断熱で全館空調のモデルハウスを見学したことがあります。夏の盛りのものすごく暑い日でしたが、家の中はほんとにどこも快適な温度。一緒に行った人たちは口々に「ずっとここにいたい」「こんな家に住みたい」と言っていて、私も「ほんとにね~」とうなずいていたのですが・・・

自宅に帰り(ちなみにわが家は今も古い一戸建てなのですが)、もわっとした空気を受け止めたとたん何かホッとして、「私は季節が感じられるこれくらいの家でいいわ」と思ったのです。いや、実際はもうちょっと暑さ寒さが緩和されるとうれしいですが(笑)、それでも「あそこまで高性能でなくていいな」と思いました。

 

自分にちょうどいい快適さが、心地いい

先に述べたように、断熱材にはいろんな種類があります。住宅会社によっては「この断熱材がベスト!」と他を認めなかったり、逆に情報通のお施主さんが「この断熱材を使ってくれ」と要望することも。でも何でもそうですが断熱材も一長一短。断熱性能だけでなく、調湿性や環境性、コストなど総合的に考えるべきものでしょう。また素材だけでなく、施工が断熱性能を左右しますから、その会社が使い慣れていない断熱材を要望するのもよくないかもしれません。

結局、「自分にちょうどいい快適さ」が「心地いい」ということなのでは?数値の情報に踊らされることなく、自分がどれくらいの気密・断熱性を求めているかを認識することが大事なんじゃないかと思います。

 

自然を生かす「パッシブデザイン」のこと

「エアコンが嫌い」「できるだけ窓を開けて暮らしたい」。そんな私が注目しているのがパッシブデザイン。設計によって自然の力を活用し、冬暖かく、夏は涼しく暮らそうという考え方です。

冬は太陽の光が部屋の奥まで射し込んでぽかぽか。夏は軒や庇がうまく日射を遮って暑くない。窓から窓へと涼しい風が通り抜ける。そんな家。昔ながらの知恵に今の設計力を加えて形にした感じですね。このパッシブデザインはまさに「心地よさ」の一つの答だと私は感じています。

ほどよい性能による「快適さ」とパッシブデザインの「心地よさ」を兼ね備えた家。私がいい家だと思うのはそんな家のような気がします。パッシブデザインについては簡単にしか触れられませんでしたが、また機会があればあらためて書ければいいなと思っています。

 

 

前回のお話(第1弾は)こちらから→ 1.運命のパートナーと出会うには


Sasaki Yuki

住宅ライター

広告のコピーライターを経てフリーランスのライターに。住宅・インテリアを中心に一般のお宅を訪れて取材し、雑誌などに原稿を執筆する。合間に楽器バンジョーを奏で、時折音楽イベントを企画。

soho MUGCUP

– KAMAKULANI

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