住まいのコラム|⒉専用の収納スペースが必要ですか?

こんにちは。フリーエディター&旅するブログの先生、「編集脳」アカデミー主宰の藤岡信代です。
この連載では、収納が苦手な私が、「!!」と感動した収納の仕組みをご紹介しつつ、ストレスフリーな収納のつくり方を考えてみたいと思います。

第2回のテーマは、「食器の収納」。
新潟在住のライフオーガナイザー&レジデンシャルオーガナイザー、十熊美幸さんのキッチンの収納の仕組みをご紹介します。

 


“食器は食器棚”という思い込み、ありませんか?

突然ですが、実家の食器収納は、どんなスタイルでしたか?

大阪府八尾市にあった藤岡家のダイニングキッチンは、8畳ほどの広さで、I型のキッチンセットにL字になるように食器棚を置き、中央にダイニングテーブルがありました。白のメラニン合板張りの食器棚は、幅160cm、高さ180cmほどの大きめサイズ。母や同居していた祖母は、「水屋」と呼んでいました(笑)。ちなみに水屋とは、「茶室に付属した勝手。茶道具を整頓する棚と,道具を洗うための流しがある」とWEB辞書には出てきますが、大阪では食器棚のことも、こう呼びます。

わが家の食器棚は、基本は引き戸で、腰くらいの高さに引き出しがあり、そこから下は木の引き戸、上はガラス引き戸でした。下のほうには、お正月や来客のとき、すき焼きのとき(笑)に使う大皿。ガラス引き戸の中には、ふだん使いの取り皿、小鉢、ガラスコップなどが入っていて、ガラス越しに見えるので、自分たちで取り出したりしまったり、自然にお手伝いをしていたように思います。

だから、「食器とは食器棚にしまうもの」と、みじんも疑ったことはなく、しかも食器棚とは実家にあったような背の高いもの、と思っていました。読者の皆さんは、いかがですか?

 

 

取り出しやすさと機能を考えると、高さは不要?

そんな私ですが、50歳を迎える年齢になって、「理想の食器収納は、絶対に引き出し式!!!」と強く信じています(笑)。まずは、私が理想とする、十熊さんのキッチンの食器収納をご紹介しますね。

トップの画像を見ていただくとわかるように、十熊さんのキッチンは、対面式のI型のキッチンカウンターと、その背面側に平行に設えたカウンター兼収納というスタイルです。カウンター兼収納は壁づけになっていて、カウンター上には窓やオープン棚があり、のびのびした抜け感と、ほどよく見せて楽しむ収納が、心地よい空間をつくっています。

 

キッチンのワークトップと同スペース以上のワークスペースが背面にも欲しかったので、カウンター下を有効に活用することを考えました。大量の食器を収納するには、大容量を確保できる引出し式が都合もよく、実際、十分のスペースを確保できました。
また、気分的に、目線の通る場所は抜け感が欲しかったんです。壁面に食器収納棚を設けると、面材仕上げの場合は扉そのものの圧迫感がありますし、ガラス仕上げだと食器の色柄や配置など目から入るストレスが増えるので、壁面収納は避けようと思いました」

十熊さん

 

ご実家の食器棚は、わが家と同じ180cm高さで90cm幅のシンプルな戸棚だったそうですが(十熊さんと私は同年代。同じ昭和のキッチンで育ちました)、器好きの十熊さんは、実家よりもはるかに多い食器をお持ちです。ご夫婦二人暮らしには多い?というくらいの量ですが、好きな器を選ぶ楽しみは代えがたい。量を減らすのではなく、コンパクトに収める方法=引き出し式の食器収納を選びました。

 

「扉式の収納は、大皿以外はどうしても、手前に置くもの、奥に配置するものと2段階の配置になるので、奥のモノを取り出す際のアクション数が増えます。また、取り出しやすくするためには、手前を低くしたり底上げをしたり、使いやすくするためのひと手間も必要になります。収納量もぐっと減ってしまいます」

十熊さん

 

言われてみれば、食器棚を使いやすくするには小さな工夫がいろいろと必要。その点、引き出しなら、引き出す手間さえ惜しまなければ、中は一目で見渡せます。

 

 


スペースではなく、動作からも発想してみる

さらに、引き出し式は動作がラク、という大きなメリットがあります。

「「引き出し式を選んだのは、食器の取り出しが断然、楽だったからです!しゃがむ必要がないので足腰に負担が少ない。奥のモノを取り出す際に、手前のモノをいったん出してまた戻す、という余計な動きも必要ない。中に収納しているモノが一目瞭然で、取り出しが楽ちん!これがいちばん大きな理由です」

十熊さん

 

建築士の資格をお持ちの十熊さんは、引き出しの高さを入れる食器に合わせてプラン。ワイングラス用、カトラリー用の引き出しもあり、「今日はどれにしようかなぁ」と選ぶ楽しさを味わえるところも、お気に入りポイントだそう。地震の際も、扉が開いて食器が割れる心配がありません。

さらに、“片づけやすい仕組み”にもなっている点にもご注目。こちらの写真をご覧ください(写真:)。

向かって左側が食器収納になっているカウンター、右側がキッチン。キッチンには食器洗い乾燥機がセットされており、洗いあがった食器は、振り向いたところにある引き出しに順にしまっていく、という流れになっているのです。

 

 

「最低限の動線で、出す・盛り付ける、洗う・戻すができるように、収納場所を考えました。“洗う・拭く”は、食洗器を入れることで、“拭く”が省略できたので、かなり楽になっています。“戻す”も、食洗器で洗いあがったものを、背面カウンターの引き出しのそれぞれの場所に戻すという流れになっていて、ほとんど動く必要がない。かなり家事動線の無駄がない仕組みになっていると思います」

十熊さん

 

ご実家のキッチンも、洗い物をする流し台から食器収納をするまでの動線が短かったそう。

 

「食後、家族みんなで片づけ、食器を洗って拭いたら、すぐに食器棚にしまい、シンクやキッチン回りは、モノがなく常にきれいな状態でした。これをキープするための収納の仕組みや行動の習慣化は、実家の影響を受けている部分と言えますね」

十熊さん

 

収納のスペースやしまい方を踏襲するのではなく、動作や仕組み、習慣のほうを受け継ぐ。自分に合わない部分は積極的に変え、良い部分は積極的に残した結果が、十熊さんのこの使いやすいキッチンなのです。

 

 


まずは「使いづらさ」に気づくことから

十熊さんのキッチンと食器収納を目にしたとき、「あぁ、これが理想だわ!!!」と強く思った私ですが、「食器は食器棚」から「引き出し式が便利」に意識が変わるには、2つのオドロキ体験が必要でした。

1つめは、20代後半、ひとり暮らしのインテリア雑誌をつくっていたころ。ひとり暮らしのお宅訪問取材で、小さな流し台の上の吊り戸棚に食器をしまっていたり、流し台の下にお茶碗とお箸が収納されていたり(これはかなりの衝撃でした)、「キッチンキャビネットに食器をしまう」という例を何度も目にしたことでした。

考えてみたら、ひとり暮らしにたくさんの食器は必要なく、また調理道具も少ないので、キッチンキャビネットには十分なスペースがあるわけです。そこにわざわざ食器専用の棚を買うなんて、もったいない。スペースを有効活用しようと思えば、当然の選択でもあるわけです。理屈で考えればわかることが、自分には発想できなかった。「食器は食器棚にしまうもの」という、収納場所についての思い込みがあるのだということに、初めて気づきました。

2つめのオドロキは、インテリア雑誌編集部の大先輩のお宅に遊びに行ったときのこと。お料理上手で、器選びもインテリアもセンスのいいその先輩は、食器収納にチェストのような引き出し家具を使っていたのです。中には、古伊万里のなます皿やら八寸皿が並び、お料理の準備をしながら必要なお皿をさくさくと出してくれました。

「これは楽ちん!」。見ればすぐにわかることですが、引き出しの便利さを食器にも応用する、という発想はそのとき初めて目にしたのです。食器のしまい方(=棚に置く)についても、思い込みがあったのでした。

収納場所と、収納方法についての思い込み。
これをはずしてもいい、と気づいてから、私の収納への考え方は少し変わったように思います。古い一軒家をリフォームすることになったときも、迷わず引き出し収納つきのシステムキッチンを選び、シンク下の引き出しは丸ごとふだん用の食器に使うことにしました。

 

 


自分が収納に求めていることは?

何から収納を考えるのか?
スペースなのか、動作なのか、はたまた片づけやすさなのか。まずは自分が求めていることを考えてみることが、実はとても大事なことだと思います。

さて、私と同様、実家のキッチンは背の高い食器棚を使っていた、という十熊さん。十熊さんの気づきはいつだったの?と伺ってみると、結婚してお姑さんとの二世帯住宅暮らしを経験し、少しずつ「自分にとっての使いづらさとは?」を意識するようになったことがスタートだったそうです。

二世帯住宅のキッチン以外に自分の小さなキッチンを持つことになったとき、まずはワークスペースをつくろうと、高さ90㎝のカウンター仕上げの引出し式食器棚を購入。「奥のものまで全部見える」というようなキャッチだった記憶があるそうですが、実際に使ってみたら、使いやすく戻しやすく、見つけやすく、「なんてラクチンなんだ!」と感激したのだそう。「扉式の食器棚は自分には使いづらい……」ということを、きちんと意識できていたからこそ、そのキャッチコピーがアンテナにかかったのでしょう。

「収納がラクになる家」の第一歩は、収納にまつわる思い込みをはずして、自分の「使いづらさ」の原因に気づくこと。思い込みをはずすには、いろいろな収納のスタイルを見て、体感してみるのがおすすめです。

 

前回のお話(第1弾)はこちらから→⒈収納がうまくできない理由はなんだ??


 

Fujioka Nobuyo

インテリアエディター

インテリア雑誌『PLUS1LIVING』ハウジング雑誌『はじめての家づくり』などの編集長を経て、現在では『編集脳アカデミー』主宰として住宅や編集に関するセミナーやコンサルティングを行う。

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