住まいのコラム|3.「快適さ」と「心地よさ」 ― その2『広さ』

快適さと心地よさ、その2つの言葉にはしっかりと使い分ける理由がありました。
断熱性能がもたらす快適さと、それを心地よいと感じる気持ち。
どちらも家づくりにとって大切な要素で、家と暮らしがつながっていることを裏付けているようです。

 

住宅ライター佐々木由紀さんによる「住まいのコラム」第3弾。
3.「快適さ」と「心地よさ」 ― その2『広さ』広い快適さ、小さな心地よさ

今よりずっと狭い家に住んでいた頃、「家の中に見たことのないドアを見つけて、開けてみると、『わぁ、こんなところに部屋があったんだ!』」という夢を何度も見ていました。モノが多くて捨てられない夫と、整理下手な私。家の中には2人の仕事のものと趣味のものと生活用品があふれかえり、ついでに子どもたちのものもあふれ(当然子どもたちも片付け下手)、常に「何とかしなきゃ」と思ってた、その切迫感が夢に出ていたんでしょう。今、もう少し広い家に住むようになって、相変わらず物は多くて散らかっているのですが、それでも「こんなところに部屋があった!」という夢はぱったり見なくなっていますから、ずいぶん気持ちが落ち着いているのだと思います。

広さは確かに快適です。のびのびできるし、スムーズに動けます。キッチンが広くなったおかげで、作業効率が上がり、お弁当づくりの時間がかなり短縮できました。散らかっていても気になりにくいというか、誤魔化しやすいともいえます。家族との距離もほどよくあるので、風通しがよくてラクです。

でも振り返ると、「あの小さな家はなんだか心地よかったなあ」とも思うのです。

小さな家は何もかもが近い。一番思い出すのは窓の近さ、外の近さです。キッチンの流しの前も窓で、そこから入る光がお弁当づくりの時間を幸せにしてくれました。仕事部屋の窓からは建ち並ぶ家や集合住宅越しに海が見えて、その「切り取られた海」が何とも言えず好きでした。トイレもお風呂もとても狭くて、窓がすぐそばにありました。

好きなモノも近くにあります。リビング(というにはあまりに狭い茶の間的スペース)の壁一面が本棚で、家族の本がごちゃ混ぜに入れてありました。本棚の下がベンチになっていて、そこに座ってすぐ読めるという仕掛けです(実際はベンチは物置になってしまっていて、座るにはモノをどかすワンアクションが必要なのですが)。キッチンも狭くて収納スペースも少ないので、調理器具はやたらそのへんに釘を打って吊るしていました。かごやお玉やおろし金がぶら下がっている風景も結構好きでした。

そして家族も近い。今は家族とのほどよい距離が快適ですが、まだ小さかった子どもたちとギュッとくっつきあうようにしてテレビを見てたあの時間も、宝物だったなあと思うのです。

 

小さな家こそ設計力がモノをいう

私の住んでいた小さな家は中途半端に古い、いい加減に設計された家で、そのままではかなり住みにくかったのですが、途中である建築家さんにお願いしてリフォームし、ずいぶん居心地よくなりました。大きく変えたのはキッチンとリビングの間仕切りを撤去し、そこに大きなカウンターを設けたこと。隣家の壁に面していてあまり意味がなかったリビングの窓の部分を利用し、壁一面の本棚を造り付けたことです。

取材で伺うお宅にも、ときにはびっくりするほど小さな家があります。そして上手な設計士さんがプランした家だと、中に入ると「狭さを感じない」のでさらにびっくりします。

上手な設計士さんがプランした家はまず、空間の使い方が秀逸。廊下などの無駄なスペースはできるだけなくしながら、プライバシーを守る間取りだったり、収納スペースをうまく取ってあったり。平面だけでなく、立体的に生かしてスペースを生み出していたり。昔の家のように、階段が狭くて急で上り下りしにくいとか、家族がすれ違うとぶつかりそうということもなく、動きやすさもきちんと考えられています。

そして実際の広さだけでなく、「心理的な広さ」も設計で生み出せます。視線がうまく抜けることで広がり感が生まれますし、すっきりしたデザインも広がりを感じさせます。明るい空間も広く感じられますから、窓をうまく取ることも重要です。「できる」設計士さんはこのあたりが本当に上手です。

狭小地の建て替えなど面積や敷地条件が厳しい場合でも、うまく設計すれば窮屈さを解消しながら、小さな家の心地よさを楽しむ家が建てられると思います。

 

あえて小さく建てる豊かさ

狭小地を活用して建てる、「敷地克服タイプ」の小さな家とは別に、あえて小さく建てる、「小さな家推進派」の家もあります。しかたなく小さな家に住むのではなく、「小さな家がいいんだよ」という一種の思想を体現した家です。

私の場合はやむなく住んだ小さな家の中で、心地よさを見つけたのですが、この「小さな家推進派」の人たちは、最初から小さな家の豊かさを認識し、小さめの家を新築しています。一番のポイントは敷地目いっぱいに建てるのではなく、ゆとりを残して建てる点です。建物の周りに余裕があれば、そこに植栽を植えることができ、あちこちの窓から緑が見えて心がなごみます。庭も広くできるし、家庭菜園をつくるなど、自然を身近に楽しめる家になります。室内と庭がひとつながりになったような設計にすれば、部屋が広くなくても開放感があるし、リビングにいても外の雰囲気が感じられます。

暮らし心地のよさだけでなく、建築費が抑えられるから、ローンの負担も軽減され、家計にも優しくなります。建てるときの建築資材も少なくてすむし、住んでからの冷暖房のエネルギーも少なくてすむから、地球環境の観点からも優しい家だといえます。

取材して感じるのは、「小さな家推進派」の人たちは、暮らしに対する意識が高い人が多いということです。モノを買うときはじっくり吟味し、気に入ったものを丁寧に使い、やたらとモノをたくさん持たない。片付けのルールも何気なくつくり、無理なくこざっぱりと住まわれている。小さな家で豊かに暮らすには、きちんとした暮らしへの姿勢が必要なんだと実感します。「こんなところに部屋があった」という夢を見るようでは、小さな家での豊かな暮らしは遠いなあと、わが身を反省することしきりです。

 

広い空間には、心地よい「居場所」を

とはいえ、広々した空間の快適さは捨てがたいものです。新築するときは、「ほかの部屋は小さくても、リビングはできるだけ広々と」と希望する人が多いですし、リノベーションではかなりの割合で、間仕切り壁を撤去してLDKを広くしています。そしてそのような広々した部屋を訪れると、確かに気持ちいいなあと感じます。

ただ、ガランと広い空間はどこか落ち着かなかったり、深みのあるくつろぎが得られにくいような気もします。広い空間にはちょっとこもり感のあるような、心地のいい「居場所」をつくることが大切だと思います。うまく設計された家は、ほどよい凸凹があって、空間はつながっていても心理的に分離できたり、気分を変えたりできます。リビング内に設けた小上がりの畳スペースや、デスクを造り付けた書斎コーナー。天井の高さをリビングは高く、ダイニングは低めにすれば、食事時がほっこりしそう。掘りごたつ式のテーブルを設けたお宅を取材したときは、お子さんたちがこたつの中に入り込んで遊んでいて、こういうスペースってワクワクするよなあと微笑ましく思いました。

自分でそういう居場所をつくることもできます。ソファの横のサイドテーブルにスタンドを置けば、丸い光に包まれたプライベート感のある居場所に。リビングの一角に小さなラグを敷き、お気に入りの椅子に座って読書したり、ダイニングテーブルとは別に窓辺に小さなテーブルを置き、お茶を楽しむのも素敵。広々した快適さと小さな心地よさ、両方を叶えた家が一番贅沢かもしれません。

 

 

前回のお話(第2弾)はこちらから→ 2.「快適さ」と「心地よさ」 ― その1『室温』


Sasaki Yuki

住宅ライター

広告のコピーライターを経てフリーランスのライターに。住宅・インテリアを中心に一般のお宅を訪れて取材し、雑誌などに原稿を執筆する。合間に楽器バンジョーを奏で、時折音楽イベントを企画。

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– KAMAKULANI

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